2016年9月20日火曜日

<理事会・代議員会の議決内容の解説>その2

次に、後継制度の内容について解説します。

1.キャッシュバランスプランとは:
  下図は「ベネフィット・ワン企業年金基金」パンフレットからの抜粋です。
  従来の確定給付年金制度では、将来の給付額が経済環境などに関わらず
  確定されますが、キャッシュバランスプランでは金利動向に応じて積立額と
  給付額が変わります。掛金拠出の累計額に、積立期間中の国債等に連動
  した実勢利回り(下図では再評価率)での利息を付与する、いわば、
  市場利回り連動型での積立金計算方式なので、資産運用に起因する積立
  不足が発生しにくい仕組みで、数多くの企業年金制度で採用されています。 
  

2.後継制度の掛金と給付内容:
  後継制度の具体的モデルは次のようになっています。
  (議案2.-4「後継制度の概要」から)
    ・標準掛金;標準報酬給与の1.0% ・・・・平均給与30万円
    ・予定利率;2.0%
    ・加入期間;45年(20歳加入、65歳給付開始)
     →標準掛金累計;30万円×1.0%×12ヶ月×45年≒162万円、
       の掛金元本に対して毎年2.0%の利息が付与されて、
     ⇒65歳時一時金額242万円、これを20年確定年金にすると
      年金年額14.7万円(20年分総額294万円)、となります。
      (下イメージ図)

   しかし当基金の後継制度では「特別掛金」2.4%の負担が14年間(H30/3移行
   の場合の償却期間)予定されています。平均給与30万円の2.4%を14年間
   負担する場合の負担額合計は121万円となります。
   この特別掛金負担を含むイメージ図は下のようになります。
   この図でお分かりのとおり、事業主は標準掛金計162万円と、特別掛金計121万円
   合計283万円を拠出して、社員本人に支給されるのは242万円(一時金)となり、
   これでは”逆ザヤ赤字給付”となることが一目瞭然です。
   
   そもそも特別掛金とは積立不足分を償却(穴埋め)するための追加掛金です。
   後継制度は現基金の受給権を満額保全で引き継ぐので、現基金の積立不足も
   そのまま後継制度に引き継ぐことになり、特別掛金負担は当然と言えます。

   そこで事業所が考えるべきは、その追加負担が自社の加入員と受給権者(OB)
   の積立不足分の穴埋め負担として妥当かどうか、という点になります。
   例えば、加入員50人の事業所の場合には、後継制度での特別掛金負担総額が
   約6,050万円(121万円×50人)に上ることになりますが、それが自社加入員と
   自社OBの積立不足分に対して妥当かどうか、ということになります。
   では、その点をどう検討すればよいのでしょうか。次の試算が目安になります。

   特別掛金2.4%(償却期間14年)の前提条件は、H30/3移行・移行時資産46億円
   ですが、H30/3移行時の上乗せ債務(最低積立基準額)は、財政見通し計画から
   141億円(523億-382億円)と計算されますので、上乗せ資産46億円を”平等”に
   分配するとなると、分配率は46億円÷141億円=32.6%となります。
   上乗せ債務141億円の内訳が加入員分33%、受給権者分64%と、H27年度末と
   同じと仮定し、またそれぞれの人数も同じだとすると、次の試算ができます。
            加入員     受給権者     合計
   債務額(割合)  46.5億円(33%)    94.5億円(64%)  141億円(100%)
   人数        9,391人       10,492人
   平均債務額①   49.5万円/人    90.0万円/人
   移行時資産額   15.2億円(33%)  30.8億円(64%)  46億円(100%)
   平均資産額②  16.2万円/人     29.4万円/人
   分配率②÷①    32.7%       32.7%
   不足額①-②  33.3万円/人     60.6万円/人
   ⇒加入員1人&受給権者(OB)1人の不足額合計は、約94万円となるので、
    制度開始時点の不足額94万円を14年間で埋め合わせるすると、利息
    込みで約121万円の特別掛金累計額にほぼ相当すると見えます。
   ⇒つまり、加入員1人に対して自社OB受給権者1人を抱える事業所に
    とっては、この特別掛金(2.4%×14年)は妥当、ということになります。
    (加入員1人+受給権者1人≒94万円不足を、14年間121万円で穴埋め)

   となると、加入員50人の事業所では、自社OB受給権者が50人以上で
   あれば後継制度に加入するのはお得ということになります。
   逆に、自社OB受給権者が加入員数より少なければ、加入するのは損
   ということになります。
   これが後継制度に移行するかどうかの判断の一つの目安になります。
   自社OB受給権者が何人いるのか、またOB分の債務額(最低積立基準額)
   は幾らなのか、データを基金から取り寄せれば、さらによく分かります。

 (続く)



2016年9月19日月曜日

<理事会・代議員会の決議内容の解説>その1

解散方針が全会一致で決議されたことは朗報です。
次の課題は『解散時期の早期化』ですが、その根拠を以下で解説します。

1.「財政見通し計画」からの検証:
 議案2.-1で、基金解散までの財政見通し計画が提示されています。
 その内容を見ると、「毎年14億円の運用収益を上げているにもかかわらず、
 上乗せ資産は 毎年7億円しか増加しない」ことが分かります。
 その原因は、基礎収支(掛金等収入と給付等支出の収支)が毎年▲17億円
 もの大赤字だからです。さらに、その基礎収支赤字の中身をよく見てみると、
 代行部分は掛金収入17億円、年金給付39億円で差引き▲22億円の赤字、
 上乗せ部分は掛金収入13億円、年金給付5億円で差引き8億円の黒字
 であることが分かります。(H27年度決算より)
 つまり「代行部分が大赤字であるために、上乗せ掛金をつぎ込んでも、運用で
 稼いでも、年金資産がなかなか増えない」という構図が分かります。
 
 そこで、仮にもう一年早く、H29/3月で解散して、全事業所が後継制度に移行
 した場合をシミュレーションしてみました。
 H29/3の年金資産430億円のうち391億円を国に返還し、上乗せ資産39億円が
 後継制度の資産となります。上乗せ分の掛金(13億円)と給付(5億円)は現行
 のままと仮定し、運用収益ゼロとして計算すると下表のようになりました。

     ≪早期解散(H29/3)の場合の年金資産シミュレーション≫


  元の財政見通し計画と比べると、H30/3時点の資産額は46億円→47億円に、
  H31/3時点の資産額は53億円→55億円、に増加することが分かります。
  不確実性が伴う資産運用に頼らなくても(運用収益がゼロでも)、代行部分を
  国に早く返上することで”確実に”資産額が増加するということは、後継制度に
  移行するしないに関わらず、加入員、受給権者の全員にとってプラスです。
  つまり、1年でも早い解散は関係者全員にとって有利と言えます。
  

2.「不確実性(運用リスク)の排除」:
 いったん基金解散の方針を決めたからには、できるだけ迅速に解散準備をとり
 進めると同時に、年金資産の”確保”に努めることは鉄則です。
 そこで、資産確保の一つの方法として、「年金資産の前納」があります。
 国に返還する代行部分の資産については、国の年金資産の運用を行っている
 GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用利回りに負けなければよい、
 とされています。つまり国の運用利回りと基金の運用利回りが同じであれば、
 代行資産額の増減が同じなので、基金の追加負担にはならない、ということです。
 そんなことならば、代行資産額の一部でもを先に返してしまえば(解散認可の前に
 納めるので「前納」と言います)、その分の運用リスクは全くなくなるから、基金に
 とっても安心だ、ということで解散した多くの基金では前納をしています。
 解散が決まった以上は、運用リスクを排除することが効果的です。

 なお、現実には、当基金はH27年度の代行部分の運用利回りは国に負けています。
 また、今年度の足元の運用利回りも負けているようです。
 基金の常務理事は、運用責任者としての”運用執行理事”を務めてもらっていますが、
 解散方針を決定した以上は、資産確保の観点からの運用リスク排除という発想転換
 が必要になるでしょう。

 ちなみに、当基金の兄弟分に相当する「東京金属事業厚生年金基金」は、来年3月の
 解散に向けて解散業務を取り進めていますが、再び『代行割れ』に転落する公算大、
 という状況に陥ってしまいました。同基金のホームページにも公開されています。
 http://www.tokyokinzoku-pf.or.jp/kaisan_kankei.php
 通常解散で代行割れの場合、代行不足額を事業主が一括拠出すること、連帯債務が
 伴う、となるので、同意書取得では紛糾する懸念があります。
 もって他山の石、とすべきではないでしょうか。


 



<理事会・代議員会のご報告>その2
基金解散の方針が正式決定されました。

議案2.後継制度の最終案と移行時期について
 後継制度設立準備委員会の答申を受けて、次が承認されました。

 1.移行(解散)時期を、当初予定から1年前倒し、平成30年3月とする
   解散時期までの財政見通し計画は以下。   (金額単位:億円)
   ・平成30年3月末(H30年度末)に解散&新制度移行すると、基金全体で
    46億円の上乗せ資産がある、という計画。
   ・前倒しした理由は、前倒ししても掛金等が変わらない、特別掛金は
    後継制度で掛けることになるので移行する事業所にとっては時期が
    どちらでも移行条件は変わらない、とのこと。
   ・これ以上前倒しできない理由として、これ以上はやめると移行条件が
    悪くなる、同意書回収や移行しない事業所の自社独自対応に時間が
    必要、等としています。
   
2.H30/3に移行した場合の受給権(給付内容)、掛金等について
   後継制度での受給権(給付水準)と掛金負担の概略は次です。
   【前提】
          (1)移行人数は現行の半数(加入員約5,000人、受給権者約3,500人)
          (2)親なし受給権者は移行せず、解散&分配金の対象とする。
          (3)加入員拠出額は優先分配せず。
   ◇後継制度では、
    ❶後継移行事業所の加入員・受給権者の受給権を満額保全する。
    ❷掛金率は現行と同じ(計3.4%)。償却完了後(14年後)は掛金率が
     大幅に減少(3.4%→1.0%)するので、その後は給付増額を見込む。
    ❸償却期間は、H31/3から13年間とH30/3から14年間で同じになる。

 3.後継制度への移行形態
   (1)いったん基金を解散のうえ、希望する事業所が残余財産の分配金を
           持ち込むことにより後継制度に移行する。
   (2)後継移行する事業所の加入員および受給権者(=最終勤務先が当該
           事業所)については、分配金を移行することで、後継制度で受給権を満額
           保全する。(受給権者は本人の選択により)
   (3)移行しない事業所の加入員・受給権者には、分配金をそれぞれの持ち分に
           応じ平等に分配する(分配率は、移行する事業所もしない事業所も同じ)。
   (4)いわゆる親なし受給権者(事業所が倒産や脱退で基金に現存しない)へは、
   分配金をそれぞれの持ち分に応じ平等に分配する。(上記と同様)
   (5)加入員拠出分については優先分配しない。(理由:優先分配できるほど
           までに移行時の上乗せ資産が積み上がらない、すでに受給権者となった方も
           いる等)

   ※解散後の残余財産分配について、”平等な分配”とは加入員・受給権者の
    それぞれの持ち分(計算上の個人別最低積立基準額)に応じて分配する
    ことです。イメージは下図(H28/3月末で解散・分配したと仮定して)。
    加入員(9,391人)と受給権者(10,492人;親なし受給権者含む)の全員に
    満額給付を保全するために必要な積立額(最低積立基準額)の合計
    151億円です。
    内訳は、加入員分52億円(55万円/人)、受給権者分99億円(94万円/人)。
    それに対し上乗せ資産33億円を平等に分配すると、加入員には11億円
    (12万円/人)、受給権者には22億円(21万円/人)が分配されます。
    分配率(分配額÷必要積立額)は約22%で全員に共通となります

 4.後継制度の概要について
   概要は下表のとおりです。現基金制度と比べて主な改定点は、次です。
   (1)終身年金の廃止(有期確定年金;最長20年)、
   (2)予定利率の引き下げ(5.5%→2.0%)
   (3)キャッシュバランスプラン(元金プラス市場連動利息付与方式)採用
   (4)一時金支給の導入
      現行基金との比較は下表のとおり(赤字が変更点)です。

    制度設計の内容自体は問題ない(他基金でも同様事例多数)のですが、
    問題は、特別掛金2.4%負担(14年間)が制度開始時点からあることです。
    (詳細解説は後述します)

 5.移行(解散)までのスケジュール:
    下表のとおり。注記に「表は予定であり、今後見直す場合があります」と
    されています。
    まさにその通りで、この予定をいかに早めるかが当基金のこれからの課題
    です。

  (続く)

2016年9月17日土曜日

<理事会・代議員会のご報告> その1
基金解散の方針が正式決定されました。

9月8日の理事会、15日の代議員会で、従来の「代行返上」(代行部分を国に返して、上乗せ部分を続ける)の方針を、「基金解散」の方針に正式に変更することが決定しました。これに伴って、厚生労働省に『解散計画』の変更届け出を行うことになりました。

同理事会では、併せて平成27年度(H28/3月期)決算も承認されました。また、基金をいったん解散した後に設立する後継制度の内容も公表されました。概略と解説を以下に記載致します。

議案1.平成27年度(H28/3月期)決算内容
 積立状況を表す”貸借対照表”(バランスシート)は下図のようになりました。
 純資産は前年度末の459億円から432億円に27億円減少してしまいましたが、国の
 代行債務である最低責任準備金も前年度末の435億円から398億円に37億円減少
 したおかげで、その差額である”上乗せ資産”は23億円から33億円に増加しました。

 1年間の収支を表す”損益計算書”は下図のようになりました。
 掛金と給付の基礎収支は▲14億円の赤字(前年度の▲13億円から赤字拡大。
 掛金収入が約1億円減少したのは、加入員の平均給与・賞与の減少が原因。)
 運用はH26年度59億円の収益から一転してH27年度は▲13億円の損失に転落。
 その結果、基礎収支▲14億円と運用損益▲13億円の合計で▲27億円が年金資産
 の取り崩し(上記のバランスシートでの純資産減少)となりました。
 「基礎収支赤字を抱えて、財政回復は運用頼み」という当基金の構図そのものです。

 ・・・素朴な疑問ですが、運用損失を▲13億円も出していながら、運用報酬は前年と
 同じ2億円を支払っているのはいかがなものでしょうか。他基金では銀行と交渉して
 引き下げさせた例もあります。

 (続く)